先進国の多くでは、国内の地域格差が拡大している現実が、全国平均の統計値の裏に隠れてしまっている。大都市圏が急速に成長する一方で、多くの中小都市や地方部はその歩みに追いつけずにいる。わたしたちCIPFAとバーミンガム大学City-REDI (City-Region Economic Development Institute:都市地域経済開発研究所)による最新の英日共同研究(日本語版報告書)は、この課題に真正面から取り組み、イギリスの「第二の都市」バーミンガム(およびウェスト・ミッドランズ地域)と、日本の「第二の都市」大阪(および関西圏)の比較分析を行った。その結果、長期的に機能する制度、経済活動に即した地理的範囲の設定、柔軟な財政手法、そして開かれた学習サイクルこそが、戦略を成果へと結びつける鍵であることが明らかになった。
政治情勢の変化を超えて持続する制度を
突発的な事態が生じたとき、明確な権限と説明責任を有する体制に率いられた地域ほど迅速に対応できる。イングランドの「トレイルブレイザー型」地方分権協定(先駆的地方分権協定)はその好例である。ウェスト・ミッドランズ広域自治体(WMCA)は、現在では、英国政府の各省予算のような特徴を有する複数年型の包括的な交付金を受け、数カ月単位ではなく数年単位で優先順位付けや取捨選択を行うことのできる安定性を確保している。
英国ウェスト・ミッドランズ地域の地図

出典 : cipfa.org
この包括的な交付金に基づく「都市圏持続可能交通整備基金」は、ウェンズベリー-ブライアリーヒル間メトロの第2期延伸(メリーヒルまで)について計画変更および資金調達を行うことを可能にした。2024年7月に3600万ポンドの追加配分がなされると、総額2億9500万ポンドの事業が政府に承認され、2025年2月に着工された。
同じ協定の下で、10年間にわたる事業税収入の100%留保(約4億5000万ポンド相当)も認められている。予見可能性の高い複数年型の交付金や地方に留保される事業税収入があれば、投資案件や事業を計画している地域にとって、無理のない借入やその他の資金調達手段は、より妥当性の高い選択肢となり、活用しやすくなる。ただし、これらの手段は地方自治体の資本財政のための責任規範(The Prudential Code for Capital Finance in Local Authorities)および英国財務省の規制に従う必要がある。もっと具体的に言えば、この協定があれば、波及効果の大きいインフラ整備について、便益が明確であり、将来の収入(または国からの交付金)によって無理なく債務を返済できる場合に、地域の行政主体がその投資を実現できることを意味している。
首長への明確な権限の付与と包括的交付金を組み合わせれば、地域は、雇用・生産性・脱炭素化などに関する5カ年の成果目標を策定するとともに、公共発注・調達を経済成長の裾野を拡大するという政策目標(中小企業の参入率など)に連動させることもできるし、年度途中で予算を適切に組み替えて――次年度の補助金の配分を待たずに――効果の高い施策を機動的に拡大することもできる。
日本の第二の都市圏にとってもこの教訓は有用である。成果主義に基づく複数年型の包括的交付金を導入すれば、イノベーション地区の振興や中小企業支援、既成市街地の遊休地再生などを、毎年度の補助金申請の結果に左右されずに実行できる。また、柔軟な財政スキームによって、公共交通、人材育成、企業支援といった様々な分野における投資や予算事業を段階的に実施することが可能となる。このような取組は、最先端の研究開発によって生み出された知的成果を、地域経済における生産性向上と雇用に「変換」していくために必要不可欠である。
現実の経済活動の地理的範囲にあわせて政策を実行する
経済成長にとって行政的な境界は関係がない。ウェスト・ミッドランズにおいて分権の受け皿となっている体制は、交通・人材育成・企業支援を一つのシステムとして企画立案できるよう、意図的な制度設計により、バーミンガム、コベントリー、ウルヴァーハンプトンや周辺自治体が一体となった労働市場全体をその区域に含められるようにしている。
日本の関西圏は、大阪・京都・神戸という複数の中心を有する地域構造を持ち、大学、製造業のサプライチェーン、観光拠点が集積し、一体となって機能している。大阪が国際金融都市としての地位を確立しようとする取り組みや、2025年大阪・関西万博を交流促進のプラットフォームとして活用しようとする動きは、「関西」という地域アイデンティティが複数の地方公共団体の行政区域を越えた投資を喚起できることを示している。
日本・関西地域の地図

出典 : cipfa.org
日本からは、制度面での補完的な教訓が得られる。関西広域連合(複数の府県が連携する広域的な組織)は、インフラ、エネルギー、防災対応などの分野で地方公共団体の境界を越えて調整を行っている。このようなプラットフォームは、「第二の都市圏」にとって、各府県の利害・目標の整合を図り、大規模プロジェクトのための資源を共同で確保し、国や投資家に対して一貫性のある発信を行うために有効である。
一体として機能している圏域の単位で政策立案を行うことで、リーダーは交通拠点、人材育成拠点、イノベーション地区を連携させることができる。一つのプログラムのもとで、新しい鉄道駅、その隣接地での職業訓練施設の整備、そして近隣におけるヘルステック産業拠点の開業を同時期に調整すれば、企業は事業開始初日から人材と産業拠点の双方にアクセスできる。その結果、各都市が個別に行動する場合に比べて、企業の生存率が高まり、技術や経済効果の波及もより迅速になる。
安定的にうまく機能するように設計された制度は、政権の交代による混乱を抑え、地域が、労働者の能力向上、都市再生、イノベーション・エコシステムといった分野への長期的な投資を維持しつつ、中央政府に対して示した成果目標を達成するための取組を持続的に実行することを容易にする。
大規模プロジェクトを「学びの場」として扱う
優れた地域は、大規模プロジェクトを単に施工するだけでなく、その過程を通じて社会全体で学ぶ。その好例が2025年大阪・関西万博である。夢洲を舞台に6か月にわたって開催された国際的イベントであり、大規模な施設という形でレガシーを残す。適切に設計すれば、このようなプラットフォームは、デジタルサービスの実証やモビリティ・エネルギー分野のソリューションの技術検証の場となり、さらに梅田の「グラングリーン大阪」のような投資を呼び込める地区の形成を仕込むことができる。
来場者の円滑な受け入れ、中小企業の参画、関連産業への雇用の促進、万博後の土地利用などについて、明確な指標や事後評価を公表することで、単なるイベントを体系的な学習の機会へと転換し、その後のさらなる投資の呼び込みに向けて魅力を高めることができる。
大規模プロジェクトの成否はしばしば「ソフト面」にかかっている。ガバナンスの明確さ、効果の波及を促す公共発注・調達、そして成果に応じて予算配分を変更するフィードバックの仕組みが鍵となる。
より広い観点からの3つの教訓
第一に、生産性の底上げは可能である――ただし、その目標を「波及」に置くことが重要である。最先端の技術革新も重要だが、実際に大きな成果を生むのは、残り90%の企業が優れた技術や経営手法を採用する「波及」の部分である。日英の取組は、大学・医療機関・先端製造業などの中核拠点が先導する地区の形成を、中小企業の技術導入支援プログラムや、(非大卒・若年労働者を含む)労働者のスキル形成支援の取組と組み合わせることの重要性を示している。関西では、金融や万博関連の取組を通じて、資金とノウハウを地域におけるサプライチェーンの形成に活用することが可能であり、ウェストミッドランズでは包括的な交付金により、需要に応じて企業支援サービスへの予算配分を柔軟に調整できる。
第二に、気候変動やデジタル化への対応(トランジション)は地域主導で進められなければならない。脱炭素化やデジタル化の影響は地域によって異なる。包括的な交付金や広域連携体制は、交通の脱炭素化、サプライチェーンのグリーン化、「誰一人取り残さない」デジタル化といった取組に横断的に資金を配分する余力を地域にもたらし、政策効果が届く範囲を調整しつつ、民間資金を呼び込むことを可能にする。関西広域連合の守備範囲がエネルギーとインフラの分野にまたがっていることは、まさにトランジションに必要とされる横断的な権限の好例である。
第三に、説明責任が可視化されることで地域において政権に対する信頼が培われる。「不満の地理学(geographies of discontent)」(訳注:経済的に置き去りになっている地域の住民が、政治的な不満を抱えている状況)の原因の一部は、制度の問題である。イングランドの先駆的地方分権協定のように、国・地方の役割分担についての明確な協定や紛争解決の仕組み、そして分権の成果を図るための指標を策定・公開するとともに、住民に向き合って地域を率いる首長たちに実行権限を付与することで、公共投資が不偏不党かつ効果的であるという信頼を回復することができる。
再生のエンジン
第二の都市圏は、国の再生を牽引するエンジンとなり得る。そのためには、長期的に機能する制度、経済活動の実態に即した地理的な範囲、優先順位を自由に決められる柔軟な財政、そして学びと適応を可能にする手段を与えることが重要である。それが実現すれば、これらの地域は裾野の広い、強靭な成長をもたらすだろう。
詳しくは、レポートMaking Decentralisation Work をご覧ください。
本ブログで取り上げたテーマに関連する OECD のその他の分析として、Transforming Places、Enhancing Productivity in UK Core Cities、Fiscal Equalisation and Regional Development Policies、および Place-Based Policies for the Future もぜひご参照ください。
Jeffrey Matsu is Chief Economist at the Chartered Institute of Public Finance and Accountancy (CIPFA). He is a Fellow of Practice at the Blavatnik School of Government, University of Oxford, and an Associate at theCity-Region Economic Development Institute, University of Birmingham.
With extensive experience in connecting policy with practice through evidence-based research, Jeff works with partner governments, accountancy bodies and the public sector around the world to advance public finance and support better public services. His areas of interest include regional economic growth, value for money (VfM) and financial resilience.
Previously, Jeff was responsible for market analysis and thought leadership at the Royal Institution of Chartered Surveyors and co-led the economy theme at the UK Collaborative Centre for Housing Evidence. He was also a senior economist at Morgan Stanley and served on the research staff at the Board of Governors of the Federal Reserve System in Washington DC.
Jeff holds degrees in economics from the University of Washington and Johns Hopkins University.

